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口腔機能低下症とは? ― 食べる・話す力を守るために知っておきたいこと
高齢化社会が進む中で、加齢に伴う体の変化はさまざまな影響を及ぼします。特に重要なのが、口の機能の低下です。食事を楽しむ、会話をする、表情を作るなど、私たちの生活は口腔の健康と密接に結びついています。しかし、年齢や生活習慣、病気などの影響で口腔機能が低下すると、栄養摂取や生活の質(QOL)に深刻な影響が出ることがあります。これを専門的には口腔機能低下症(こうくうきのうていかしょう)と呼びます。
口腔機能低下症は、単に「歯がない」「入れ歯が合わない」といった構造的な問題だけでなく、口の筋肉や舌の運動、咀嚼力や嚥下力などの機能的な低下を総合的に捉えた概念です。2018年には日本老年歯科医学会により、口腔機能低下症の診断基準が明確化され、高齢者の健康維持の観点からも注目されるようになりました。
口腔機能低下症で低下する機能とは
口腔機能低下症では、以下の7つの要素の低下が指標となります。
- 咀嚼機能(噛む力)
食べ物を細かく砕く力が低下すると、消化吸収が不十分になり、栄養不足や消化器への負担が増えます。また、噛む刺激は脳への血流を促進するため、認知機能維持にも関与しています。 - 嚥下機能(飲み込む力)
嚥下機能が低下すると、むせやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。高齢者の死亡原因の上位に入るこの疾患を予防するためにも、嚥下力の維持は非常に重要です。 - 舌・唇の運動機能
舌や唇の動きが鈍くなると、滑舌が悪くなるだけでなく、食べ物の取り込みや噛み砕きが不十分になり、咀嚼力の低下に直結します。 - 唾液分泌量
唾液は口の潤滑剤であると同時に、口腔内の自浄作用や抗菌作用を担っています。唾液の減少は口臭やむし歯、歯周病のリスク増加につながります。 - 口腔感覚(味覚・温度感覚など)
味覚や温度感覚の低下は、食欲の低下や飲み込みのタイミングのズレにつながり、食事の楽しみや安全性に影響します。 - 咬合力(歯で噛む力)
歯の喪失や義歯の不適合により噛む力が低下すると、硬い食べ物が食べられなくなり、食生活が偏る原因になります。 - 口腔清掃状態
歯磨きや舌清掃が不十分になると、むし歯や歯周病のリスクが上がり、さらに口腔機能低下を加速させます。
原因は多岐にわたる
- 加齢による筋力低下
高齢になると、口の周囲の筋肉(口輪筋・咀嚼筋・舌筋など)が衰え、咀嚼力や嚥下力の低下につながります。 - 歯の喪失や義歯不適合
歯が失われたり、入れ歯が合わなかったりすると、噛む力が不十分になり、顎の動きや筋肉のバランスも崩れます。 - 唾液分泌の低下
薬の副作用やシェーグレン症候群などの疾患、ストレスによって唾液量が減ることがあります。 - 柔らかい食品ばかりの食生活
噛む力を必要としない食事は、顎や舌の筋肉の発達・維持を阻害します。 - 会話の減少
一人暮らしや生活環境の変化により、口を動かす機会が減ると、口腔周囲の筋力が低下します。 - 全身疾患との関連
糖尿病や脳血管障害、神経疾患などは、口腔機能の低下と関連しています。
放置するとどうなるのか
- 低栄養・体重減少
硬いものが食べられず、栄養バランスが崩れることで、低栄養に陥ります。 - 誤嚥性肺炎
嚥下機能が低下すると、食べ物や唾液が気管に入りやすくなり、肺炎を起こすリスクが高まります。 - 認知機能への影響
噛む刺激が脳の血流に関わるため、口腔機能低下は認知症の進行に関与すると考えられています。 - 生活の質(QOL)の低下
食べる楽しみや会話の楽しみが減少し、社会的孤立や精神的ストレスにつながることもあります。
予防と改善のポイント
- よく噛む習慣
硬さのある食品を取り入れ、顎と舌の筋肉を使うことが大切です。 - 口腔体操
「あいうえお体操」「パタカラ体操」などで舌や唇の筋力を強化します。 - 定期的な歯科受診
歯や義歯の状態をチェックし、咬合バランスを整えます。 - 口腔清掃の徹底
歯ブラシ・舌ブラシ・うがいで清潔を保ち、感染や炎症を防ぎます。 - 唾液分泌の促進
水分をこまめに摂る、ガムを噛む、唾液腺マッサージを行うことで口の潤いを保ちます。
歯科医院での取り組み
歯科医院では、口腔機能低下症の診断として、舌圧測定・咀嚼能評価・唾液量測定などを実施します。その結果に基づき、筋力トレーニングや嚥下リハビリ、義歯や咬合調整など、個々の状態に合わせた治療プランを提供します。また、歯科衛生士による定期的な口腔リハビリや食生活指導も行われ、口の機能を回復し維持することが可能です。
まとめ
口腔機能低下症は、加齢とともに誰にでも起こり得る変化ですが、早期に気づき、適切な対策を行うことで改善や予防が可能です。食べる力・話す力は人生の質を左右します。少しでも違和感や変化を感じたら、早めに歯科医院で相談し、日々の生活で口腔機能を維持する習慣を取り入れましょう。健康な口は、健康な体と心への第一歩です。