矯正治療

そもそも矯正歯科ってなに?

矯正歯科とは、歯並びや噛み合わせの不正を改善し、見た目と機能の両面からお口の健康を整えるための診療科です。一般的には「歯並びをきれいにする治療」というイメージが強いですが、実際にはそれだけではありません。矯正治療は、歯を少しずつ正しい位置に動かすことで、噛み合わせのバランスを整え、しっかりと噛める状態に導く治療でもあります。見た目の美しさだけでなく、食べる・話すといった基本的な機能の改善にも大きな役割を果たしています。 歯並びが悪いと、食べ物をきちんと噛み砕けず、胃腸への負担が大きくなったり、発音に影響を与えることもあります。また、歯が重なって磨きにくい部分が増えるため、虫歯や歯周病のリスクが高まります。矯正治療によって歯並びが整うと、清掃性が向上し、長期的に見て歯の健康を守ることにもつながります。 さらに、噛み合わせのバランスが整うことで、顎関節や筋肉への負担が減り、肩こりや頭痛、顎の痛みなど全身の不調が改善されることもあります。このように、矯正歯科は「見た目を美しくするための治療」ではなく、「口の健康を通して全身を健康に導く治療」と言えるのです。

きくち歯科クリニックでは、「歯のことで煩わしさや不安を感じてほしくない」「より快適で健康的な生活を送ってほしい」という想いを大切に、患者さま一人ひとりに寄り添った丁寧な診療を行っています。初診時には口腔内の状態を詳しく検査し、歯の動き方や顎の位置などを踏まえた上で、最適な治療プランをわかりやすくご説明します。 矯正治療は時間をかけて行う治療ですが、治療後の変化は見た目だけでなく、心身の健康にまで及びます。自分の歯を長く健康に保つためにも、歯並びや噛み合わせに気になる点があれば、早めの相談と治療を心がけましょう。

なぜ、歯並びは悪くなる?

歯並びが悪くなる原因は、単に「日本人は顎が小さいから」といった遺伝的な理由だけではありません。実際には、生活習慣や日常的な癖が大きく影響していることが多いのです。歯は顎や筋肉、舌の動き、噛み方など、さまざまな要因のバランスによって正しい位置に並びます。そのため、少しの習慣や癖でも長期間続けば歯並びに大きな変化をもたらしてしまうのです。以下では、歯並びを悪くする主な原因を紹介します。

1.日常的な癖

まず一つ目は「日常的な癖」です。成長期の子どもに多い指しゃぶりや爪噛み、唇を噛む、舌で歯を押す、頬杖をつくといった癖は、歯や顎の発達に強い影響を与えます。特に舌で歯を押す癖(舌突出癖)は、前歯が前方に押し出されて出っ歯になったり、上下の歯がかみ合わない「開咬」と呼ばれる不正咬合の原因になります。また、頬杖は片側に圧力をかけるため、顎が歪み、顔のバランスが崩れてしまうこともあります。

2.むし歯

二つ目の原因は「むし歯」です。特に乳歯のむし歯を放置したり、早く抜けてしまった場合、永久歯が生えるスペースがなくなり、歯が斜めに生えたり、重なって生えてくることがあります。また永久歯でも、むし歯で抜いたまま放置していると、隣の歯が倒れてきて歯列全体が乱れてしまいます。むし歯は単なる「穴の空いた歯」ではなく、歯並びの乱れの引き金にもなるのです。

3.口呼吸

三つ目は「口呼吸」です。アレルギー性鼻炎や慢性的な鼻づまりなどで鼻呼吸がしにくいと、自然と口で呼吸をするようになります。すると舌が下の方に下がり、上顎が十分に発達しなくなります。その結果、歯が並ぶためのスペースが不足し、前歯が出たり歯列が狭くなったりするのです。さらに、常に口が開いた状態だと唇の筋肉も弱まり、口元のバランスが崩れて顔貌にも影響します。

4.噛み方の問題

四つ目は「噛み方の問題」です。現代の食生活では、やわらかい食品を摂る機会が増え、しっかり噛む習慣が少なくなっています。噛む力が弱まると、顎の骨の発達が不十分となり、歯が並ぶスペースが狭くなります。また、偏った噛み方(片側だけで噛むなど)も歯列の歪みの原因になります。バランスよく両側で噛むことは、きれいな歯並びの形成に欠かせません。

5.小帯の異常

五つ目は「小帯(しょうたい)の異常」です。小帯とは唇や頬、舌の裏側にあるスジのことですが、これが太かったり短かったりすると、歯列の成長を妨げたり、歯のすき間を広げる原因になることがあります。例えば、上唇小帯が太く歯の間まで入り込んでいると、前歯のすきっ歯(正中離開)を引き起こす場合もあります。

6.遺伝的なもの

もちろん「遺伝的な要因」も無視はできません。顎の形や大きさ、歯の大きさはある程度遺伝によって決まります。例えば、両親のどちらかが顎が小さく歯が大きい場合、子どもも同じような特徴を受け継ぎ、歯が並ぶスペースが足りなくなることがあります。しかし、遺伝的な要因があっても、生活習慣を見直すことで歯並びの悪化を抑えたり、矯正治療の効果を高めることは可能です。

このように、歯並びの乱れは「生まれつき」だけでなく、「育ち方」にも深く関係しています。小さな癖や習慣でも、長い年月をかけて歯や顎に影響を与えるため、できるだけ早い段階で気づき、改善することが大切です。日常の何気ない行動が、将来の歯並びや顔の印象を左右することを意識して、正しい習慣を身につけるようにしましょう。

矯正が必要な場合は?

矯正が必要となる不正咬合には次のようなものがあります。

叢生

叢生(そうせい)とは、歯がガタガタに重なり合って並んでいる状態を指し、「乱ぐい歯」とも呼ばれます。代表的な例として八重歯も叢生の一種です。歯が重なっていると歯ブラシが届きにくく、汚れや歯垢が溜まりやすくなります。その結果、むし歯や歯周病のリスクが高まり、歯の寿命を縮めてしまうこともあります。 叢生の主な原因は、歯が並ぶための顎のスペース不足です。現代人はやわらかい食事が増えたことで顎の発達が不十分になりやすく、それが歯の重なりを引き起こす要因となっています。子どもの場合は、成長期を利用して矯正装置により顎を広げ、歯を正しい位置に並べる治療が可能です。しかし、成長が止まった大人の場合は、十分なスペースを確保するために一部の歯を抜歯して矯正を行うことが一般的です。 叢生は見た目の問題だけでなく、将来的な口腔トラブルにもつながるため、早めの治療が大切です。

上顎前突

上顎前突(じょうがくぜんとつ)とは、一般的に「出っ歯」と呼ばれる歯並びのことで、上顎が前方に突き出している状態を指します。この症状は、上顎の過剰な成長や下顎の成長不足、または上の前歯が前方へ大きく傾いていることが原因で起こります。見た目の問題だけでなく、口が閉じにくくなるため、口の中が乾燥しやすく、唾液の自浄作用が低下してしまいます。その結果、口臭の悪化やむし歯、歯周病のリスクが高まることがあります。 成長期の子どもの場合は、顎の成長を利用して上顎と下顎のバランスを整える「成長期矯正」によって改善が可能です。しかし、成人の場合は骨格の成長が止まっているため、歯を適切に動かすために抜歯を行い、歯列全体の位置を整える矯正治療が一般的です。 上顎前突は見た目の印象を左右するだけでなく、咀嚼機能や発音にも影響を及ぼすことがあります。早めに矯正専門医に相談し、成長段階や症状に合った治療法を検討しましょう。

下顎前突

下顎前突(かがくぜんとつ)は、一般的に「受け口」や「反対咬合」と呼ばれる不正咬合の一種で、下顎が上顎よりも前に出ている状態を指します。見た目の印象に影響するだけでなく、噛み合わせのバランスが崩れることで、咀嚼(そしゃく)機能や発音にも支障をきたすことがあります。特にサ行やタ行といった発音が不明瞭になりやすく、会話に違和感を覚える人も少なくありません。 この下顎前突は、遺伝的な骨格の特徴によって起こる場合もありますが、幼少期の口呼吸や舌の癖、頬杖といった生活習慣によって悪化するケースもあります。成長期に現れる兆候を見逃さず、早期に対応することが重要です。顎の骨格は成長とともに変化するため、子どものうちに治療を始めることで、比較的負担の少ない方法で改善が期待できます。 子どもの場合には、下顎の過剰な成長を抑制する装置や、上顎の成長を促進する装置を使用し、上下の顎のバランスを整えていきます。また、マウスピース型の矯正装置を用いて噛み合わせを正しい位置に誘導することもあります。成長期の治療は、顎の骨がまだ柔軟なため、自然な発達を妨げずに矯正を進めることができます。 一方、大人になってからの治療では、骨格の成長がすでに止まっているため、矯正装置による歯の移動で対応できるのは軽度のケースに限られます。中等度から重度の下顎前突では、外科的矯正治療(顎変形症手術)を行う場合もあります。これは、下顎の骨を適切な位置で切り、後方に移動させることで噛み合わせと顔のバランスを整える治療法です。

開咬

開咬(かいこう)とは、上下の歯を噛み合わせた際に前歯の間にすき間ができ、しっかりと閉じられない噛み合わせのことを指します。見た目の問題だけでなく、食べ物を前歯でうまく噛み切れない、発音が不明瞭になるといった機能的な問題も引き起こします。特にサ行やタ行などの発音に影響が出やすく、滑舌が悪くなったり、空気がもれて話しづらくなったりするケースも多く見られます。 開咬の原因には、遺伝的な骨格の問題のほか、成長期の生活習慣が大きく関係していることがあります。たとえば、指しゃぶり、舌を前に突き出す癖、口呼吸、頬杖などの癖が続くと、前歯に外側や下方向への力が加わり、上下の歯が正しくかみ合わなくなってしまうのです。また、やわらかい食べ物ばかりを摂る食生活も、顎の発達不足を引き起こし、結果的に開咬を悪化させる一因となります。 治療は、子どもの場合であれば比較的スムーズに進むことが多いです。顎の成長を利用して、骨の発育をコントロールしながら矯正を行うことで、自然な形で噛み合わせを整えることが可能です。舌の位置や癖の改善を目的とした「口腔筋機能療法(MFT)」を併用することで、再発の防止にもつながります。 しかし、大人になってからの開咬治療は、少し難易度が高くなります。成長が終わって骨格が固定されているため、歯列矯正だけでは十分に治らないケースも多く、重度の場合には外科的矯正(顎の手術)を併用する必要があります。この手術では、上顎や下顎の位置を正しく整えたうえで、歯列矯正によって噛み合わせを完成させます。 開咬は見た目だけでなく、食事・発音・顎関節への負担など、日常生活にも影響を及ぼす不正咬合です。特にお子さまの場合、早期発見と早期治療が将来的な外科手術を避ける大きな鍵となります。気になる症状がある場合は、できるだけ早めに矯正歯科へ相談することが大切です。

矯正治療の種類

マルチブラケット法

もっともよく知られている矯正法で、歯の表の一つ一つにブラケットという装置をつけてワイヤーを通す方法です。金属ブラケットと審美的な透明(白色)ブラケットがあります。応用範囲が広く、様々な不正咬合の治療に対応できます。

裏側矯正(舌側矯正)

歯の表側でなく、裏側にブラケットをつける矯正法です。外側から見えないので矯正装置を見せたくない人に向いている治療法です。ただし、違和感を強く感じたり、金額が高めなのがデメリットです。

セルフライゲーションブラケット矯正

見た目はマルチブラケットと同じような感じですが、ブラケットとワイヤーの摩擦が少なく、よりスムーズに歯を動かすことができるため、治療を早く終わらせることができます。料金はマルチブラケットよりも高めになります。

マウスピース矯正

歯の表面に装置をつけることなく、着脱式の透明なマウスピースをはめることで歯を動かしていきます。非常に薄いため、周りの人にも気づかれにくく、食事の時には外せるのが最大のメリットです。ただし、比較的軽めの不正咬合にしか対処できないというようなデメリットもあります。

部分矯正

プチ矯正、MTMなどとも呼ばれているもので、歯並びが部分的に悪い場合に行います。短期間で終わらせられ、費用も低く抑えることができます。

矯正歯科の一般的な治療手順

  1. カウンセリング
    どのような治療が必要になるか、治療期間や金額などについての相談をします。
  2. 精密診査
    歯型をとって模型を作ったり、顔や口の中の写真、顎全体のレントゲン写真などを撮って、治療計画を立てるための参考とします。
  3. 治療計画の提案
    精密診査の結果をもとに、綿密な治療計画を立て、患者さんに提案・説明をしていきます。
  4. 矯正治療開始
    矯正装置を取り付け、治療開始です。同時に歯の磨き方、お手入れの仕方、矯正時の食事の仕方などの説明もあります。
  5. 定期的な調整
    約1ヶ月ごとくらいにワイヤーを取り替えるためなどの目的で通院します。間隔は治療内容によって異なります。
  6. 矯正装置の取り外し
    歯が並んだら矯正装置を外します。しかし、ここで終わりではありません。
  7. 保定
    歯を並べ終わった後、「後戻り」を防ぐために、リテーナーと呼ばれる取り外し式の保定装置を2〜3年装着する必要があります(就寝時など)。数ヶ月ごとくらいに定期的に装置の確認を行います。

矯正治療のリスク

  • 矯正装置の装着後及び着脱動作中、歯肉、舌、頬及び唇に、擦り傷又は痛みが生じる場合があります。
  • 矯正治療開始直後及び途中に歯の圧痛を経験する場合があります。
  • 矯正装置の装着が、一定期間、患者様の発語に影響を与える場合があります。
  • 治療過程のいずれかにおいて、咬合状態が変化し、患者様によっては一定期間、不快感を覚える場合があります。
  • 治療期間中は、虫歯や歯周病への対策を積極的に行う必要があります。
  • 矯正治療を中断した場合でも、治療前の状態に戻すことはできません。