「これって出っ歯?」オーバージェットとは

「鏡を見たとき、上の前歯が少し出ている気がする」 「横顔のシルエットが気になって、思い切り笑えない」

そんなお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。歯科の世界では、いわゆる「出っ歯」の状態を専門用語で「オーバージェット」と呼びます。

オーバージェットって何?「上の歯」と「下の歯」の距離のこと

まず、オーバージェットという言葉の意味を整理しましょう。

簡単に言うと、「上の前歯の先端が、下の前歯よりもどれくらい前に突き出しているか」という「水平方向の距離」のことです。

歯の「さし」で測る距離

歯科医院では、専用の定規を使ってこの距離を測ります。

  • 正常な範囲: 約2〜3mm程度。

  • オーバージェットの状態: この距離が4mm、5mmと大きくなっている状態を指します。

例えば・・屋根と土台の関係

イメージしてみてください。お家の「屋根」と「土台」の関係です。 理想的な歯並びは、屋根(上の歯)が土台(下の歯)をほんの少しだけカバーしている状態です。しかし、オーバージェットが大きい状態は、「屋根が土台から大きくはみ出して、前へせり出している状態」と言えます。

せり出しすぎた屋根は、雨風(外からの衝撃)を受けやすかったり、見た目のバランスが悪くなったりしますよね。お口の中でも、同じようなトラブルが起きやすくなるのです。

なぜオーバージェットになるの?3つの主な原因

「どうして私の歯は前に出ちゃったんだろう?」と疑問に思う方もいるでしょう。主な原因は大きく分けて3つあります。

① 骨格的な原因(遺伝など)

そもそも、上の顎の骨自体が大きい、あるいは下の顎の骨が後ろに下がっているケースです。これは遺伝的な要素が強く、「土台そのものの位置関係」の問題です。

② 歯の生え方の原因

顎の骨のサイズは普通でも、前歯が外側に傾いて生えてしまったケースです。歯のサイズが顎に対して大きすぎると、並びきれずに前へ押し出されてしまうことがあります。

③ 幼少期の「癖」の影響(後天的原因)

実は、これが意外と多い原因です。

    • 指しゃぶり: 指を吸う力で、上の歯を前へ、下の歯を後ろへ押しやってしまいます。

    • 舌を突き出す癖: 飲み込む時に舌で前歯を押す癖があると、ジワジワと歯が動きます。

    • 口呼吸: 常に口が開いていると、唇が歯を押さえる力が弱まり、歯が外側に広がりやすくなります。

「見た目」だけじゃない!放置する4つのリスク

「ちょっと出ているくらいなら、そのままでもいいかな」と思われがちですが、オーバージェットを放置することには、実は健康上のリスクが隠れています。

① 前歯が折れやすい(外傷のリスク)

これが最も物理的な危険です。転んだ時やスポーツをしている時、唇でガードされていない前歯は、真っ先に何かにぶつかります。通常の歯並びの人に比べて、前歯を折ったり欠いたりする確率が数倍高いというデータもあります。

② 虫歯や歯周病になりやすい

前歯が突き出していると、唇が閉じにくくなります。するとお口の中が乾燥し、唾液の「自浄作用(汚れを洗い流す力)」が低下します。バイ菌が繁殖しやすくなり、虫歯や歯肉炎のリスクが高まってしまうのです。

③ 発音がしにくい

特に「サ行」や「タ行」など、前歯と舌を使って出す音が漏れやすくなります。英語の発音などで苦労される方も少なくありません。

④ 奥歯への負担が増える

本来、前歯と奥歯はチームワークで食べ物を噛んでいます。しかし、前歯が噛み合っていないと、すべての負担が奥歯にかかります。その結果、将来的に奥歯がボロボロになったり、顎関節症を引き起こしたりする原因になるのです。

治療方法にはどんな種類がある?

現代の歯科矯正は非常に進歩しており、患者様のライフスタイルに合わせた選択が可能です。

ワイヤー矯正(表側・裏側)

最も一般的で、確実な方法です。歯にブラケットという装置をつけ、ワイヤーの力で歯を動かします。最近では、裏側に装置をつける「フルリンガル矯正」など、周りに気づかれずに治療する方法も人気です。

マウスピース矯正(インビザラインなど)

透明なマウスピースを交換しながら治していく方法です。「目立たない」「食事がしやすい」「痛みが比較的少ない」というメリットがあります。軽度〜中等度のオーバージェットには非常に有効です。

外科的な治療

骨格そのものに大きなズレがある場合は、矯正治療に加えて顎の骨の形を整える手術を併用することもあります。これにより、横顔のライン(Eライン)が劇的に美しく整います。

治療を終えた後に待っている「新しい世界」

オーバージェットを治療することは、単に歯を引っ込めることではありません。

治療を終えた患者様からは、よくこんな声をいただきます。

    • 「横顔に自信が持てて、写真を撮るのが楽しくなった」

    • 「口が自然に閉じるようになり、朝起きた時の口の乾きがなくなった」

    • 「食事がしっかり噛めるようになり、美味しく感じる」

例えるなら、「ずっとサイズが合わない靴を履いていたのが、オーダーメイドの靴に履き替えたような感覚」です。歩きやすくなる(噛みやすくなる)だけでなく、姿勢や気持ちまで前向きになれる。それが歯科矯正の本当の価値だと私たちは考えています。

まずは「自分の数値」を知ることから

【セルフチェック】あなたの「オーバージェット」度は?

「自分の歯並びは、治療が必要なレベルなのかな?」と気になる方のために、ご自宅で簡単にできるセルフチェックリストを用意しました。

以下の項目にいくつ当てはまるか、確認してみてください。

1. 前歯の間に「指」が入る

リラックスして奥歯を噛み合わせたとき、上の前歯と下の前歯の間に、人差し指の先が入るほどの隙間がありますか?(通常は2〜3mm程度なので、指が入る場合はオーバージェットの可能性があります)

2. 下唇に「前歯の跡」がつく、または前歯が乗る

ふとした時に、上の前歯が下唇の上に乗っていたり、下唇の裏側に前歯が当たって跡がついていたりしませんか?

3. 「口を閉じて」と言うと、顎にシワが寄る

口を無理に閉じようとしたとき、梅干しのようなシワが顎(オトガイ部)にできていませんか?これは、出ている歯を無理に唇で隠そうとして筋肉に力が入っているサインです。

4. 横顔を見たとき、鼻先と顎を結んだ線より口元が出ている

鼻の頭と顎の先を一直線に結んだ線(Eライン)よりも、唇が大きく前に出ていませんか?

5. 前歯で「レタス」などが噛み切りにくい

サンドイッチのレタスや、薄いお肉を前歯で噛み切るのが苦手で、いつも奥歯で噛みちぎるようにしていませんか?

6. リラックスすると、自然と口が開いてしまう

テレビを見ている時や集中している時、無意識に口がポカンと開いてしまうことはありませんか?

チェックの結果はいかがでしたか?チェックが3個以上の方で見た目にはわからなくても、奥歯に負担がかかっていたり、お口が乾きやすくなっていたりする可能性がありますので、一度お近くの歯科医院で相談してもらえればと思います。

オーバージェットは、自分では「ちょっと気になる」程度だと思っていても、歯科医師から見ると将来のリスクが高い状態であることも少なくありません。

まずは、ご自身のオーバージェットが何ミリあるのか、そしてその原因が何なのかを知ることが第一歩です。

当院では、皆さんのお口の状態を精密に診断し、根本原因を究明します。「これって治すべき?」「期間はどれくらい?」といった些細な疑問でも構いませんので、お気軽にご相談ください。